ゆちりち

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第十六章 《 冒険の次の目的地へ 》

 翌朝、快調に走り出したわらしべ長者号は高速道路に乗った。相変わらず弟と小春の歌謡ショウが車内で繰り広げられる中、一時間ほどで高速のパーキングエリアにたどり着いた。
 ここで昼食タイムらしい。窮屈な車内から開放され、外の乾いた冷たい空気は爽快に感じた。
「寒いねー」
 手を抹り合わせながら小春が車を出てくる。すっかりなついた弟も張り付いている。
 あと数時間で小春とも本当にお別れになる事実が、急に思い出されて胸が重くなった。ここまで懐いてしまった弟は、別れ際にどんな反応を示すのだろう。
「じゃあシー坊カップラーメン買ってきて」
 車内で毛布に包まった姉ちゃんが手を振っている。動かないつもりだ。でも、旅の資金を全額姉ちゃんが負担している以上、文句を言える立場でもない。
 両親は子供など放任してパーキングエリアの店内に入って行った。
 続いて店内に入ると、目の前にはフードコートが広がっているが、空いているテーブルはなかった。年末休暇の最中、県外へスキーへ出かける家族連れや友人仲間などがごった返している。そんな賑わいの中、家を失いかけてジリ貧の旅を続ける我が一家。なんてテンションの違いだろうか。
 お土産屋や売店が立ち並ぶ一角で両親を見つけ、母親に昼食代をせがんだ。手渡されたのはワンコイン。たった五百円。これで僕と姉ちゃんの昼食代をまかなわなければならない。こんなものでなにが買えるというのだろうか。
 食品の自動販売機で姉ちゃんと僕のカップヌードルと飲み物を購入すると、ぴったり五百円消費した。
 昼食を手に車へ戻りがてら、小春の姿を探した。
 小春はお土産屋にいた。近寄って行くと、小春は回転式の棚に飾られたキーホルダーを眺めていた。
「なにかいいのがあった?」
 声をかけると振り返り、笑顔を返す小春。その笑顔に胸をズキュンと刺激される。
 ああ、本当にあと数時間で別れなければならいのか、と言い表せない焦燥感が鳩尾あたりで渦巻いている。
「うん。これ、きれいだなって思って」
 小春は七色に光る貝殻が連なったキーホルダーを指差した。キーホルダーだから、文字通り鍵に取り付けるものだが、小春は鍵を持っているのだろうか。一人暮らしだから、家の鍵くらい持っているだろう。
 値段を見ると、三百円もした。
「買うの?」
「ううん。見てただけ。学生だからそんなにお金持ってないしね」
 小春はそのあと、自分の昼食を買った。フードコートからワンボックスカーの方を見ると、両親はすでに車に戻っている。もう少しゆっくりすればいいのに。
 カップヌードルにお湯を注いでから車まで戻ると、スライドドアのところでシャボン玉を飛ばす弟をよけて車内に入った。毛布に包まる姉ちゃんにカップヌードルを渡す。
「ドア閉めてよー。寒いよー」
 姉ちゃんの言うことなどまるで耳に入らない弟はシャボン玉に夢中。
「そろそろ行くわよ」
 母親の号令に、弟がシャボン玉を諦めて車内に入り込んだ――そのときだった。
 僕がスライドドアを閉めようと手を伸ばしたとき、それを阻止するかのように手が外から伸びてきたのだ。
 驚いた僕が手の持ち主に注目すると、そこにいたのは肩で息をする見知らぬ男だった。
「み、見つけたぞ!」
 僕が呆然と男を見返していると、男は息を弾ませながら運転席を睨んだ。何事だと振り返った母親が悲鳴を上げる。続いて振り返った父親も、鸚鵡返しのように悲鳴を上げた。
「このくそやろうが」
 見知らぬ男が唸ると、父親は慌ててエンジンをかけた。
「待て! 逃げるな!」
 男の訴えをよそに、母親が「早くドアを閉めるのよ、シー坊!」と怒鳴ったので、僕はなにも状況を把握できないままドアを閉めようとした。ところが歯をむき出しにした男が負けじと抵抗する。
 父親がドアが開いたまま車を発進させた。僕は驚いて、とっさに弟を見る。弟は姉にシッカリ抱きかかえられている。
「待て! 俺の話を聞け!」
 男が叫んでいたが、不意に小春が身を乗り出して、ドアを掴んでいた男の腕を振り解いた。不意の攻撃にバランスを崩した男は、駐車場に転がって悲鳴を上げた。
 僕は慌ててドアを閉め、小春と顔を見合わせた。
「素晴らしい、小春ちゃん!」
 父親が歓声を上げた。
「なんなの、いまの人」
 母親が何度も振り返りながら「知らない人よ。きっと気がふれてる人なのよ」と答えた。
 僕は激しく胸を叩く心臓あたりを抑えながら、やっぱり小春と顔を見合わせた。

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