桃色くも


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第九章 〔 緑川 〕 


  翌朝は快晴だった。とても真夏の晴れは快適とは思えないが、淀んだ空よりはましだ。
 当たり前のように庄太郎の家で朝食をご馳走になった邑崎一行は、今日の予定を主人に聞かれ、邑崎が答えていた。
「今日はこの後、東京に戻ろうと思います」
「ああ、やっぱり」
 がっくりと肩を落とす主人。茶山が愛娘のような柔和な眼差しで主人を見る。
「大丈夫よ、また来るから。なんなら呼びつけてくれてもいいし。名刺渡したでしょ。それにもうちょっと居るから」
 そうかそうかと機嫌を取り戻して表情をやわらかくする主人。そんなに茶山を気に入っているのか。
 奥さんに剥いたリンゴを勧められた凛子が朝食代わりにかじっている。奥さんは凛子の隣に母親のように寄り添い、凛子の口の周りについたリンゴの汁をふき取ったり、これが美味しい、あれが美味しいなどおかずを勧めては面倒を見ている。
 不思議な光景だ。帰郷したわけではないのに、まるで家族の一員のような雰囲気。むしろ実の息子である庄太郎の方がよそよそしく、無言で食事を終えると、サッカー部の練習のため、登校の支度を始めている。
 凛子は打ち解けていると言うよりは、奥さんのなすがままに弄繰り回されている印象。嫌がりもしなければ嬉しそうにもしない凛子は奥さんの愛玩のようだ。
「茶山、ゆっくりはしないぞ。朝食をご馳走になったら、東京に戻ってお前に話を聞く」
 茶山が据わった目で邑崎を睨みつける。
「午前中くらい、ゆっくりしていってもいいでしょ。ね、凛子ちゃん」
 凛子は声を掛けられると、夢から覚めたように目を丸くして顔を上げた。凛子は茶山と邑崎の顔を交互に見ながら、しばらくするとこくりとうなずいて見せた。
「こら、話聞いてなかったろ。適当に頷くな」
 邑崎がたしなめると、凛子は卑屈そうに邑崎を睨みつけて、今にも泣き出しそうになった。奥さんが豊満な体で凛子を抱きしめると、よしよしと頭をなでている。
 主人が苦笑混じりに言った。
「ほんねぇかたくならねえで。へぇたらへぇたらしてってくりょうし」
 邑崎は主人の言葉を理解できない。曖昧に笑って頷いただけだ。
「理解してないなら、適当に頷かないの」
 茶山に指摘され、腹が立ったが反論できない。茶山が凛子に親指を突き立てて、仕返ししてやったとウインクして見せると、凛子はようやく笑みを作った。
「ずらずら……」
 凛子が呟く。凛子は朝目を覚ましてから、甲州弁の語尾に付く「ずら」ばかり意味もなく口にする。感覚では、耳に残るテレビCMのテーマソングを口ずさむくらいの意識だろう。
 
 
 
 主人が庭にある製糸工場に作業に出かけると、お茶を出された邑崎、茶山、凛子の三人はテーブルを囲んで、居間に座していた。
 エアコンなどない。縁側が開放され、間接の太陽光が室内を明るく照らし、つけっぱなしのテレビはやや黒味がかかっている。
 気分はまさにお盆に帰郷し、仕事の緊張や人ごみの雑多から解放され、夏休みの学生のごとくのんびりとした穏やかさ。
 時間の流れが緩やかに感じ、少しくらいのんびりしても、世間は待っていてくれるような気持ちになる。
 実際はそれほどのんびり構えている余裕などない。急ぐ理由もないが、要するに時間とは積み重なるもので、のんびりする時間を何度も過ごすうちに、結末は想像以上に遠ざかっていく。
 時間とは、世間一般に考えられているほど多くはない。決められた時間内に、物事をこなす計画を立てればよく分かる。大抵は予定をこなすためには予想以上の時間がかかる。
「茶山、この際東京に戻るまでもない。ここに今日いっぱい滞在するならそれでもいい。なら今話せ」
「何を?」
「今さらとぼけるな。万里夫に関する情報だ。すべて話せ」
「今ここで?」
「ああ。丁度いいだろ。家族は誰もいない。凛子もいる」
 凛子は甘菓子と茶を交互に口に放り込みながら、邑崎を見ている。万里夫の話題だ。凛子も注視している。
「そうねえ。まず、あなた方の言う万里夫さんに初めて会ったのが十三年前。風木島失踪事件の数週間前の三日間。多くの話題は不思議な話ばかり。世界の怪奇現象。人体自然発火現象って知ってる? 身体の一部を残して、人体が燃え尽きてしまう現象。出火原因も謎。肉も骨も完全に燃え尽きているのに、周りに延焼していない。突然人前で何の脈絡もなく人が燃え出し、短い時間で骨まで灰と化す。原因は分かってないけど、世界中で目撃されている現象の一つ。一番多くしたのはバミューダトライアングルの話ね。船舶や航空機の消失事件。色んな仮説があって、彼と色々な論議をした覚えがある。もちろん、UFOの話し、幽霊の話し、ポルターガイスト現象の話。なんでもした。でも、共通点があって、どれも科学的に究明しようと立てられた仮説や、実証された謎の話」
「そんな話しはどうでもいい。重要なところだけ話せ。お前は『初めて会ったのは十三年前』と言ったな? ほかでも会ったことがあるのか?」
「察しがいいわね。そう、あるわよ。でも、順序だてて話したんだけど」
「俺たちは今の万里夫の行方に関わることだけしか聞く気はない。お前の思い出話はまた今度の機会にしろ」
「そんな機会があると思えないけど。でも、重要なことだから、全部聞いて。超常現象のくだりはもういいわ。話しても分からないだろうし。そうね。その風木島での三日間。毎日、一時間か二時間くらいお話した。それだけの交流だった。それ以外はない。私が本島に戻って二週間ほどしてから、あの日本史上最大の神隠し事件が起こった。十三年前の八月十二日。島にいたキャンプ客、キャンプ場の運営人たち、港に常駐する幾人かの船舶業者、丘の上に立った総合医学研究所の職員たち、研究所に常駐する警備員など、全員が一晩のうちに消えてうせた。日常の生活の一部をその場に残したまま、ろうそくを吹き消したみたいに、ふっ、とね。死体が発見されたり、島を何らかの手段で出たり、島のどこかに潜んでいるような証拠は何一つ見つからず、研究所にいたっては入出所記録を調べても、ほとんどの研究員の入所記録はあっても、表に出たような記録はなかった。研究所のセキュリティを管理している警備会社に事情が聞かれたそうだけど、当時、所員の全員が持っていたIDカードをカードリーダに通さなければ、入所は愚か、出所も出来ない。研究所を出れば必ず誰が何時何分に研究所を出たか、事細かに過去十年にわたって保存されるそうよ。それを無視して表に出るには、建築的な欠陥、あるいは破損がなければ無理。つまり、セキュリティのかかっていない隠し扉のようなものがあり、そこから表に出るか、壁に穴を開けて外に出るしかないって」
「窓はないのか」
「研究所には窓はないし、非常扉にもセキュリティがある。つまり、扉にはセンサーがあって、そこを開けば個人は特定できなくても開かれたかどうかは記録されるんだって。もちろん、それも調べられた」
「お前が話したいのは、万里夫もそのとき失踪したということか?」
「そう。当時は黄瀬さんと名乗っていたけど、黄瀬さんも研究所に出入りしていた人間の一人。調べた結果では、黄瀬さんも行方不明者の一人に数えられていて、失踪時研究所内にいたそうよ」
「黄瀬という男と、万里夫が同一人物である証拠は?」
「証拠は何もないわ。私が風木島で会った黄瀬さんと、庄太郎が廃村であったという黄瀬さんという人の特徴が重なっただけの話。容姿の特徴、庄太郎がかわした話題の内容、聞いた限りの印象、それと黄瀬達郎という名前の同一。私はほぼ確信を持って、十三年前の黄瀬さんと、庄太郎の会った黄瀬は同一人物だと思ってた。庄太郎の会った黄瀬が、あなた方の知っている緑川万里夫と同一人物かどうかは、私には分からないけどね」
「おそらくは同一人物だ。万里夫本人が語った事実と、庄太郎の存在と周囲の状況が重なってる。万里夫は間違いなくここにいた」
「そうね。そうならいいわね。……いいえ、同一人物よ。すべて話すことにしたんだから、ちゃんと話すわ。黄瀬さんはあなた方の探してる万里夫さんに間違いないわ」
「どうしてそんなことが分かる?」
「私の話を最後まで聞けば分かる。それじゃ、私が二度目に黄瀬さんに会った話。そのときは今から一年前」
 邑崎は思わず腰を上げて茶山に向かって身を乗り出した。
「なぜそれを言わなかった?」
 茶山にひるんだ様子はない。変わらない調子で話を続ける。
「言おうか言うまいか迷ってた。それは今朝、話したわよね。あなたがエゴイストのサディストだったら、黙っていようと思ってた。でも話すわ。落ち着いて聞いてよね。いい?」
 茶山はすべて話すといっている。嘘ではないと思った邑崎はしりを座布団に戻した。
「一年前、黄瀬さんに会って私はすべて確信した。十三年前とほとんど変わってない容姿。いろいろ惑わせちゃったと思うけど、私が十三年前の黄瀬さんとここに現れた黄瀬さんが同一人物なのを確信してる理由は、実際に一年前にあったから」
 邑崎は怒涛の質問攻めを開始したい気持ちを押し込める。
「会ったのはその日一日だけ。でも、一日中黄瀬さんと他愛もない話をした。他愛もない話をしたし、重要な話もしたわ。どんな話だったか」
 不意に力のこもった目で、茶山が邑崎を睨み、右手で指差した。邑崎がいぶかしんでいると、茶山は指先をくるくる回す。
「黄瀬さんと話したのは、黄瀬さんの昔話。黄瀬さんが幼少時代に作った無二の親友。あなたの話よ、邑崎さん。それから凛子ちゃん。あなたの話もしたわ」
 凛子が目を丸くした。
「万里夫さんが……?」
 凛子は唇をわななかせ、言葉にならない言葉を発する。茶山はニッコリと笑いながら凛子を見ている。
 だが、凛子の気づいていない不可解な事実を邑崎はすでに悟っている。恐ろしい事実だ。邑崎は全身をあわ立たせた。
「続きを話せ茶山。いろいろ知ってるようだな」
「知ってるわよ。あなたが黄瀬さんを救った。だから黄瀬さんは今も生きてこうして話をしていられる、そう言ってた。具体的な話も聞いた。仔犬が虐待を受けて、二人で復讐したこと。それに私のお姉ちゃん。十三年前、風木島で話してくれた続きを教えてくれた。お姉ちゃんの持っていた人形。死ぬその瞬間まで力いっぱい握って話さなかったバービーの人形。継ぎはぎだらけで汚らしいぬいぐるみ」
「万里夫さんはどこに……?」
 凛子がうめき声のようにそう尋ねた。茶山はやはりニッコリ笑った。
「ちゃんと話してあげる。今どこにいるかは、残念ながら知らないけどね。ちょっと待ってて、凛子ちゃん。全部話すからね。万里夫さんはどこへも行かないから」
 邑崎も辛抱強く口を閉ざし続けた。茶山にも話をじらそうとする気はない。ただ、言葉を選んでいることは間違いない。どうしてそうする必要があるのかまでは、邑崎に判断付かなかった。
 茶山は再び邑崎を見る。
「黄瀬さんはそのとき、こう言ってた。とても印象的だった。『ある種の精神的な絶望を負っている人に対して、救うために命の大切さを説く。それは誰にでも出来る。でも、それで人を救える人はいない。命の大切さを説くよりも、その人の命をいかに大切に思っているか、それが重要だ』」
 邑崎は痺れを切らして口を開く。
「それが何の関係がある?」
「あなたが自分の過去を苦しみながら告白したように、私も苦しいのよ。お願いだから聞いて」
 そういわれては、口を閉ざすしかない邑崎。
「黄瀬さんが言ったのは、木の枝に輪を作ったロープを結んで、輪に首を通している人間に、いくら命の大切さを訴えてもその人は踏み台を蹴るだろうってこと。その人を助けたかったら、その人を愛してあげなければならない。あなたが大切だといってあげなければならない。言ったら最後、責任を取らなければならない。逆に、誰か一人を本気で救おうと思ったら、自分の一生をかける決意がなければならない。一生傍にいて、支え続ける決意と責任がなければ、人を救ってはならないって」
 茶山は目に涙をためた。憎しみを込めるように邑崎を睨みつける。
「逆にね。一人の力でたくさんの人を救う力を持っている人もいる。一生をかける決意がなければ人を救えない人と、一人で多くの人を救える人。黄瀬さんは前者だって。黄瀬さんには一生をかけて、一人の人間を救うことしか出来ない。だけど、それを誇りに思うって」
 間違いだ。
 邑崎は言いかけて思いとどまる。
 万里夫が救ってきた人間は、精神科医が治療して成功を収めた患者の人数を秋かにしのぐと思えた。間違いなく、万里夫は後者であると思えた。
「たくさんの人を救える人間。それが邑崎さん、あなただって言ってた。現に、黄瀬さんはあなたに救われたと」
「俺は何もしてない」
「したのよ。あるいは間接的に。私のお姉ちゃんを救ってくれたとき、黄瀬さんも生きる決意をしたのよ」
「俺がお前の姉を?」
「茶山幸枝。覚えてない?」
 茶山幸枝――。
 邑崎は名前をキーワードにし、記憶に検索をかけた瞬間、鮮明に当時の出来事を思い出していた。
 なぜ忘れていたのか。
 いや、忘れてはいなかった。
 思い出さなかっただけだ。
「まさか、あの子の弟なのか?」
「思い出したのね。嬉しい。私は何も知らなかった。十三年前、黄瀬さんに聞かされるまで」
 凛子が邑崎を見ていた。凛子が手を伸ばし、邑崎の二の腕を掴んでゆする。邑崎が凛子を見ると、邑崎の顔を見た凛子は今にも泣き出しそうに顔をゆがめた。
 一体、自分はどんな顔をしていたというのだろうか。
「凛子ちゃんは知ってるわよね。昨夜話してあげたものね」
「昨夜?」
 昨夜、居間で邑崎が寝ていたとき、縁側で茶山と凛子が話をしていた。あの時か。
 邑崎も思い起こす。
 万里夫と親しくなったころ、ひとつの事件がおきた。
 忘れていた。
 今、茶山に言われるまで、そのときの出来事など、全く忘れ去っていた。
 そのとき、不意に背後で気配がした。
 その場にいた三人が、一斉に邑崎の背後を振り返る。そこには庄太郎が立っていた。居間から続く廊下に、サッカーの道具を入れたバッグを抱えながら、出かける直前の姿で立っている。
「邑崎さん……ってゆう名前でしたよね。邑崎さんにお客さんが来てるんだあけんど。あの……」
「俺に? 間違いないのか?」
 庄太郎はこくりと頷いた。
 邑崎は庄太郎の表情が気になった。
 邑崎は立ち上がると、庄太郎に踏み寄る。
「凛子ちゃん、一緒に行くといいわ」
 茶山が凛子を促す。
 凛子も立ち上がり、邑崎の背後に立つ。
 邑崎は何か言いたそうだが口をつぐんでいる庄太郎の横を通り過ぎ、玄関までやってきた。
 玄関に立っている人間がいる。
 薄暗い室内とは対照的な、陽気な屋外からの太陽光を背負い、心なしか黒くぼやけた男。
 手を腹の辺りで組み、こちらを見て微笑んでいるかのように見える。
 長い髪。女性のようにも思える端正な容姿。
「万里夫さん!」
 出し抜けに凛子が叫んだ。
 凛子が邑崎の背後から脇を駆け抜け、男に向かって飛び掛るように両手を広げた。
 その瞬間の男の表情に、安らいだような笑みを垣間見た。
 凛子が抱きつくのを受け止めた男は、凛子の頭を優しく撫でる。
「元気だったかい」
 男が呟く。凛子は何も答えず「ああ」と声を上げながら、男の胴体を抱き潰そうとするようにしがみついて泣いていた。
 ちくり、と邑崎の胸が痛む。昨夜自分の腕の中で眠っていた凛子。
 だが、今はそれよりも重要なことが目の前にある。
 男は伏目がちに凛子の様子を見ていたが、その視線が邑崎を捕らえた。
 年齢で言えば、三十を超えているはずだった。だが、二十台半ばのように見える容姿。女性の格好をさせれば、すれ違い様に振り替えざる終えないほどの整った顔立ち。
 呆然とする邑崎に対して、男は口を開く。
「覚えてるの? 僕のこと」
 なぜここにいる。誰に会いに来た。ここに俺たちがいると分かっていて訪れたのか。俺が探していると知っていて現れたのか。聞きたいことは山ほどある。だが、それよりも一番最初に尋ねなければならないことがある。
 邑崎は口を開いた。
「もちろん、覚えてる。それで? 約束はいつだ? 俺はいつでもいい。今すぐか? それとも約束を忘れたか? 覚えていても、気が変わったのなら俺はそれでいい」
 男は憂いそうに微笑んだ。それは答えではない。邑崎は辛抱強く答えを待った。
 背後で足音がして振り返る。そこには庄太郎が立っている。
 庄太郎は表情をなくしたまま呟くように言った。
「約束どおりずら。黄瀬さんを探しにくる人が訪れたら、黄瀬さんももういっけえ会いにくるって」
「……それはどういう意味だ?」
 その問いは男に向けた。
 凛子が男との距離を置き、男の顔を見上げた。
 凛子の顔が邑崎から窺えた。
 凛子の表情は恍惚としており、頬は濡れていたが、初めてみる笑みがたたえられてた。
 凛子は何度も何度も男の顔を見た。確かにそこにいるのは探し人だ。
 凛子は目的を達成した。
 同時に、邑崎の使命もここまでである。その結末に、邑崎の探偵としての力が働いたのかどうかは、全く分からない。だが、仕事は終わりだ。
「約束は……」
 男は凛子を見つめたまま口を開く。
 ――約束は……なかったことに。
 邑崎は言葉の続きを待った。邑崎の望む答えは「約束はなかったことに」である。だが、間違いなく、男からその言葉が聞かれることはない。
「約束は、僕が人格を食った、その瞬間。それは今じゃない」
「……わかった。それじゃ、約束はそのとき果たす」
「……ありがとう」
「約束の瞬間は、どうすれば分かる? その時がくれば分かるのか?」
 邑崎が尋ねた瞬間、突然凛子が力なくうな垂れた。抱きとめる男。
 邑崎が動揺して踏み寄ろうとしたが、躊躇した。
「大丈夫、眠ってもらっただけ。ちょっと凛子には聞かせたくないことがあるから」
 そう言って、男は凛子を両腕に抱きかかえると「お邪魔してもいいかな?」と庄太郎に尋ねる。
 庄太郎が頷いたのを確認すると、男は邑崎の横を通り過ぎ、背後に消えた。
 邑崎は誰もいなくなった玄関の外を見つめながら、しばらく動けないでいた。


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