処女+童貞=○○の法則

----------------------------------------------------------------------
PREV                          NEXT
----------------------------------------------------------------------

三章 《 金銭欲と性欲の比重 》


 天見は次にどうしようか悩んでいたようだった。噂の張本人が噂の出所なら、倉本阿佐美に近い人間に話を聞くのが最短距離じゃないか。俺がそう指摘すると、天見はってみよう冷笑うかのように言った。
「阿佐美の知り合いって言うと、僕らを瞞したあの子達のこと?」
 俺は「う」と唸る。
「直接話を聞きにいったって、何も話してくれないよ。もう一度、最初から行こう。山本早紀の友達からまた辿」
 僕ら一行は山本早紀の友達に電話した。事前に山本早紀から話を通してもらったので、話は聞いてもらえた。
 そこでも今迄と変らない噂話を聞かされ、その日一日、同じような友達の友達へ噂リレーを行った。
「いろんな人がいるよね」
 芽衣が口を開いた。
「友達の友達って、ぜんぜん違う人なのよね。一人の人の周りには似たような人が沢山いるけど、その友達の輪から外れると、まったく違う質の友達の輪があるんだね」
 芽衣の言葉は、俺もしみじみ聞いた。確かにそのとおりだ。気弱で勉強だけが取り得の少年の友達は、合コンで女を口説くことだけを目的に生きているようなナンパな男だったりする。人のつながりは永遠に広がるクモの巣のようで、あるいは幾重にも重なる水の波紋のようで、僕らはその外側から徐々に中心に近づこうとしているのだ。
「その噂を誰から聞いたか分かりますか?」
 一日中そんな電話を続けた結果、夕暮れにかけた一本の電話の回答が俺たちの気力をなえさせた。
「そうですか」
 心なしか消沈して受話器を置いた天見が溜息混じりに言った。
「この子が噂を聞いたのは、山本早紀からだって」
「ええっ」
 そう声を上げたのは芽衣だった。
「今日一日電話掛けまくって、行き着いた先がスタート地点なの!?」
 気持ちは分かる。でも、分岐はいっぱいあり、別ルートで辿っている俺と春枝がある。
 噂を聞いた友達が二人いれば、片方のルートを俺が担当し、もう片方のルートを春枝が担当するという手順だ。
 そばで携帯電話を閉じた春枝が疲れた様子で首を横に振った。
「誰から聞いた噂か覚えてないって。糸が途切れちゃった」
 全員がいっせいに溜息を漏らした。ただ悪戯に電話代だけかさんだだけである。
 いろんな理由で噂の連鎖は途切れてきた。噂を聞いた友人が不在。もしくは引っ越した。連絡先が分からない。友人に迷惑をかけたくないから連絡先は言えない。などなど。
「そうですか」
 俺も携帯電話を切って肩を落とした。
「どうだった?」
 春枝が聞いてくる。
「噂を聞いた相手は先月亡くなったって」
 急に暗い話題になり、その場の全員が言葉を失った。
「無駄。こんなの無駄。何でこんなのに二日間も付き合ったんだろう」
 芽衣がヒステリックを起こす。
「噂の元を辿るなんて、馬鹿みたいなことを考えるからこんな気分悪くなるのよ」
「結局、一番噂の大元に近かったのは緑川さんの4月に聞いたってのだけだね」
 天見がそう云うと、全員の視線が芽衣に向いた。春枝が憑かれたような声で言った。
「ねえ、芽衣。あなたに噂を話した相手、本当に思い出せないの?」
 芽衣がむっと「思い出せないよ」と突き放す。
「また途切れたところからやり直すしかないね」
「まだそんなこと言ってるの? 私もう付き合わないからね」
「そういうなよ。人手がいるんだからさ」
「だいいち、朝倉くんに何か関係してるって言うから付き合ってたのに、結局何にも分からないじゃない」
「そんなことないよ」
 天見がそう言った。芽衣が天見を睨みつける。
「朝倉には近づけなかったけど、噂の調査にはかなり情報が集まったと思うよ」
 そいうと天見が一枚の紙を取り出した。連絡した人間の名前と、その人間の情報。それから噂の糸を辿った順番に線を引かれている。まるでサルから人へ変貌する進化論の経路図のように。
「これを見て分かることは?」
 天見がクイズを出した。それに乗ったのは俺と春枝。春枝が気づいたことを言った。
「みんな高校生」
「そのとおり。さすが」
 天見がそう言うと春枝が嬉しそうに笑った。
「それじゃあ、みんな高校生だってことで、次になにが分かる?」
 すると春枝が真顔になって首を捻った。天見が解説する。
「噂でも、市場調査でも、こういった統計は必要でさ。統計を取るといろんな事が分かるんだよ。例えばみんな高校生なら、当然噂は高校生の間に広まった、といえるし、中学生や小学生には広まってない」
「まあ、噂の内容が内容だからね」
「まあね。それに、見てよ。ほとんどの人間がこの近辺の高校生。どの噂の連鎖も市外には出てない。みんな界隈の高校生なんだ」
「それが?」
「時期も見て。大体噂は最新のもので一週間くらい前で、一番古くて四ヶ月前。つまり四月頃。三四ヶ月前に聞いたというのが一番多い。つまり、この噂は四月頃に急速に広まって、一ヶ月かそこらで終息した。ところが死んだとされる三人の男。一人は三年前に一家夜逃げした男子生徒。もう一人は一年半前に自殺した高校生。時期がおかしくないか? なぜ何年も経って噂になんてなったんだ?」
 全く分からない。
「故意的なものを感じないか? 新学期が始まった四月に、彼女、倉本阿佐美に対して誰かが嫌がらせで流した。或いは自分で告白した内容が広まった。そのとき、二人だった死者が三人に増えた。これにはきっと意味がある。うわさの発信には何かきっかけがあったはずなんだ。その頃に、聖林学園で何かあったのか調べるのが、噂の根源を調べる近道。今年の新学期。聖林学園の彼女の回りでなにがあったか」
「言ってることは分かるけど、それを調べるために噂の根源を調査してたんじゃないか。そもそもそれが無理って分かった今、どうやって調べるんだよ」
 天見は春枝を見てから、次に芽衣を見た。
「な、何も知らないわよ、私は」
「見てよこの紙」
 天見は再び用紙を持ち上げた。
「噂が途切れる地点、それがほとんど聖林学園の生徒のところで止まってる」
 俺はまじまじと見た。本当である。
「噂を流したのは間違いなく聖林学園の女生徒。しかも、二年生」
「ますます、本人が流した噂って可能性が高くなったってことか」
「それと、もうひとつ気になる事があるんだ」
 天見は俺に紙を見せる。
「そこにある二人の名前。僕はどうしても電話できなかった。薬師寺と春日井」
 俺は絶句した。その二人は。
「覚えてるだろ。僕たちが高校一年のとき、もめた二人」
「ああ」
「その二人は、このマトリックスのくもの巣のごく中心近くいるんだよ」
「だからって、何か関係があるのかよ」
「実は」
 天見はそう言って沈黙した。
「なんだよ」
「僕らが例の事件で裸の写真を撮られたときあるだろ」
「ああ」
 思いかけずトラウマをえぐられる。
「あの時、あの声、僕は直感的に思ったんだ。あの二人の声だったって。どうやら僕らは復讐されたらしいよ。四天王を抜けた紀乃原への制裁だったのかもね。紀乃原も気づいてたんだ。だから相手にするなって言ったんだよ」
 まさか。
 ということは、あの演劇部の女の子たちと薬師寺と春日井は繋がっているということだ。繋がっている薬師寺と春日井が噂の大元に近いところにいるのなら、やっぱり噂はあの演劇部、そして本人自ら。
「いよいよ、本人直撃か?」
「その前に、周囲から固めて行こうか」
「周囲から?」
「明日また、高梨のところに行こうか。大詰めだね。朝倉のこともはっきりさせよう」
 春枝と芽衣が顔を見合わせていた。黙って話を聞いていた二人だが、もうすでに二人は噂という名のクモの巣にがんじがらめにされている。もう逃げ出すことは出来ない。

 

 翌日、待ち合わせに春枝も芽衣も時間通りにやってきた。誰も無駄口は聞かなかった。芽衣も不機嫌そうだったが、なんだかんだ言って結末が気になるのか、病室に向かう俺と天見の後を付いてきた。
 病室に入ると、あからさまにうろたえた様子の高梨がベッドから上半身をあわてて起こした。
「高梨さん。悪いけど、僕、君の事を調べさせてもらったよ」
 開口一番そう言った天見は、手帳を片手に語りだした。
「高梨さんはすでに学校辞めてるそうだね。朝倉くんはまだ在学してるって言ってたけど」
「何なんだお前ら。挨拶もなしに」
 あからさまに動揺している。いや、恐れている。なにに? 高梨が恐れている原因が、この先明らかになるのだろうか。
「どうして朝倉さんは、高梨さんが学校を辞めてるって教えてくれなかったんでしょうか。知らなかったんでしょうか。それほど親しくない? そうだとしても、入院してることは知ってたし、病院も病室も知ってた。なのに学校を辞めたことだけ知らないなんて不自然だ」
「知ったことかよ。あいつが知ってるか知らないかなんて」
「そうかな。それじゃ、昨日聞けなかった事を聞いていいかな」
「おいおい、いい加減にしないと俺も大人しくしてないぜ」
「大人しくしてないって、どうするの?」
「ぶん殴らなきゃ分からないか?」
「そんな怪我でなにが出来るんだよ」
「仲間だっているぜ」
 天見は怯まなかった。
「本当か? 本当に仲間がいるのか? いい加減、僕だって気が長くないんだ。僕はいろいろ知ってるよ」
 天見がそう言うと、高梨は顎を引いた。
「……それが脅してるつもりかよ」
「君が話してくれれば、僕はそれでいいんだ。そうすれば何もしないし、僕は余計なことはしゃべらない」
 高梨は一度、音を鳴らして固唾を呑むと低い声で言った。
「……なんだよ、聞きたいことって」
 天見は手帳を閉じた。もともと手帳を開いたのもフェイクだろう。自分の言葉に信憑性を持たせるためのツールか。
「まず、怪我の理由」
「バイクで事故ったんだよ」
「違うね。言い当ててあげようか。それは殴られた傷。拳とか、棒状のものでね。仲間にボコボコにされたんでしょ」
 図星だったことは高梨の脂汗を見れば明らかだ。
「だから、なんだっていうんだよ」
「ボコボコにされなくちゃいけなかった理由は?」
「そんなのお前らに何の関係があるんだよ」
「あるんだよ。お前がボコボコにされて、学校を辞めて入院した途端に、倉本阿佐美とセックスして死んだって事になってる。知ってることを話せ」
 高梨は尋常ではない汗のかき方をしている。なにをそんなに窮しているんだろう。
「絶対に俺に聞いたと言わないと約束できるか?」
 高梨は口を開き始めた。天見が肯定いて見せると、高梨は全身の緊張を解いて、ベッドにうずもれるように背中をつけた。
「知ってるよ、その噂なら」
 高梨が告白し始めると、途端に看護師が現れて「検温の時間だから出て行ってください」ととがめられた。
 ところが高梨が「引っ込んでろババア」と怒鳴ると、看護師は目を丸くして出て行った。
「セックスをすると、男のほうが死んじまう女の話、知ってるぜ」
「噂を流した人間も知ってるんだろ」
「知ってる」
 俺たちは天見の背後で顔を見合わせた。なんてことだろう。こんなところで噂の根源にたどり着くって言うのか。
 だが、それが高梨が暴行に遭ったのと、なにが関係あるのか。
 なぜ、天見にはそれが分かったのか。
 高梨は目の前の宙を見つめながら口を開く。
「俺は集会に顔を出してたとき、ある女を見たんだ」
 集会。何の集会か。その回答を得られないまま高梨の話は続く。
「かわいい女でさ。倉本阿佐美って名前だった」
 来た。核心に迫る話だ。まさか本当に噂の根源をつかめるのか。
「一目ぼれっていうか、一発やりたいっていうか。俺はその女を口説こうとしたわけだよ」
 天見は肯定きながら話を促す。
「簡単な話、その女はそのチームの頭の女でさ。俺が口説こうとしてるのがばれちまったんだ」
「それで暴行された」
「そう。それだけなら良かったんだけどよ、俺知らなかったんだよ。あのチームがあんなに巨大だって」
「ディスペアだろ。倉本阿佐美は誰の彼女だったんだ? 薬師寺か、春日井か」
 名前を出すと、高梨は狼狽したが、直に笑みを零す。
 うろたえたのは六郎も同じ。不用意な出来事や名前が次々に出てくる。
「そうだよな。あのあと朝倉から聞いたよ。お前らあの二人を知ってるんだよな。お前ら、界隈じゃほとんど伝説化してるぜ。あの裸の写真も含めてな。薬師寺と春日井の弱みを握ってるらしいじゃねえか」
 高梨が俺のほうを見た。俺は思わず目を逸らす。
「そんなことどうでもいいよ。僕たちは噂の根源を知りたいんだ。倉本阿佐美は誰の彼女で、噂は誰が流したんだ」
「倉本阿佐美は春日井の女だ。俺が阿佐美とセックスして死んだと噂を流したのも春日井だ。そういう噂を流して、俺を抹消したんだよ、あいつは」
 天見が振り返って俺を見た。天見はなぜか失望していた。
「それでそれを受け入れたのか?」
「受け入れるしかないだろ。朝倉が金銭面の援助してくれるって言うしよ、他の高校への転入も手伝ってくれるんだってよ」
 芽衣が朝倉の名前に反応する。
「朝倉くんがなんて言ったの?」
「だから、朝倉が金をくれたんだよ。示談金として三百万。それから転入の手配もしてくれるんだよ」
「なんで朝倉くんがそんなこと」
「お前、知らないのか? 三越学園っていや、有名な私立の進学校じゃねえか。どれだけ資産家のお坊ちゃまお嬢様がいると思ってんだ。朝倉にとっちゃ三百万なんてはした金だろうよ」
 芽衣が目を真ん丸くしてあとずさりする。三百万という数字に驚愕している六郎をよそに、天見が質問を続ける。
「朝倉はなんなんだ? あいつも薬師寺や春日井の仲間なのか?」
「仲間?」
 高梨が突然高笑いを始めた。
「あいつはディスペアを統括してる四人の中の一人だよ。薬師寺、春日部、朝倉、それから緑川」
「緑川?」
 聞いたことのない名前――いや、聞いた事がある。
 俺と天見が同時に芽衣を見た。芽衣の苗字は確か緑川。
「おい、お前」
「わ、私じゃないわよ。私がそんな集団のトップな分けないでしょ。ただ苗字が同じだけだって」
 そりゃそうだ。
「とにかく、ディスペアの四天王はそれぞれ聖林学園の演劇部の女と付き合ってるんだよ」
 天見は額を撫でて唸った。それは一体、なにを暗示する仕草だ。天見の態度に一抹の不安を覚える。
「他に知ってることは?」
「特にないよ、それより、くれぐれもいまの話は内密に頼むぜ」
 おそらく、天見以外にいまの話を冷静に判断できる人間はいない。天見が俺たちを振り返った。
「病人を追い詰めても気の毒だから、この辺にしておこうか」
「私は何がなんだか分からない。何がなんだか……」
 緑川芽衣が青い顔をしている。今にも卒倒しそうだ。確かに、もう引き上げたほうが良い。
 病室に再度看護師がやってきたころ、俺たちは病院をあとにした。緑川芽衣が呆然と付いてくる。外の空気を吸うと、いくらか芽衣の顔色も良くなってはいた。
「朝倉くんに彼女がいたなんて。しかも同じ学校の演劇部……」
 芽衣が気にしてるのはそんなこと。ディスペアの統括しているメンバーだの、三百万円を取っ払いしてしまうなどのことはどうでも良いらしい。
「参ったな」
 天見がもらす。
「なあ、六郎。あの写真を撮られたあとの紀乃原の態度が気になってたんだ。もしかしてあいつ」
「俺たちに秘密で、一人で落とし前つける気じゃ」
「そう思う?」
「ありえるよな」
「でも、たかが裸の写真撮られただけだしな。そこまでムキになるかな」
 考えたが分からない。あの紀乃原のこと。可能性は十分にありえる。
 天見が溜息を付くと同時に、春枝が口を開く。
「ねえ、それで噂の根源は春日井って人だったってことでしょ」
 天見が「ううん」と唸る。
「春日井か。厄介だな。あんな奴のところに話にいけないし」
「でも、噂の根源は分かったじゃないか。これで解決だろ」
 俺が言うと、天見がいつもの軽蔑そうな目を俺に向けた。
「なにが解決なもんか。僕は噂の根源を見つけて、そんな噂嘘っぱちだって証明しなくちゃいけないんだ。実際、高梨は倉本阿佐美と行為に及んでいないわけだし、ただ春日井がそう噂を流しただけだ。実際に行為の及んだ人間が生きていると証明しないとならない」
「中学のとき一家夜逃げした奴は?」
「夜逃げした人間を僕が見つけられるくらいなら、もう闇金融業者がとっくに見つけてるだろうよ。二人目の男は本当に亡くなってるし、噂の根源が春日井ってのがまずい。証明が困難になってきたぞ」
「でも、春日井と倉本阿佐美が付き合ってるのなら、セックスしてたって不思議はないだろ。それを証明できれば」
「簡単に言うなよ。六郎だって春日井のこと知ってるだろ」
「もういいだろ。結論はこういうことだろ。春日井が倉本阿佐美の貞操を守るために「倉本阿佐美とセックスした男は死ぬ」っていう噂を作ったんだ。たぶん、間違いないだろ。倉本阿佐美に手を出したら死ぬぞって。確かに有効な手段っていや、有効な手段だよな」
「証明されなければ、それは『噂』止まりだよ」
「そんなこと言ったって、倉本阿佐美を盗撮して、春日井とセックスしているところをビデオに撮るか?」
「……なるほどね。それは思いつかなかった」
「変態!」
 芽衣と春枝が声を合わせて大声を出した。ただし、春枝は笑顔だったが。
 証明するにしても、春日井に直接話をするしか選択肢はない。それか、さっきも言ったとおり盗撮するか。
「それにね、いまのところ、春日井が三人目の被害者を高梨に仕立て上げたことは推測できたけど、過去の二人も作ったのかどうかはまったく分かってない。やっぱり……」
 天見が振り返る。
「最後に一ヶ所だけ付き合ってよ。それで最後にする」
「最後って?」
「その前に確認するからちょっと待って」
 そう言って携帯電話を取り出した。

 

「な、何で私の家に?」
 たどり着いた目的地は、果たして緑川芽衣の実家だった。芽衣は玄関前に立ちはだかり、俺たちの進行を阻んだ。
「これ以上は許さないわよ。もう噂の検証ごっこも終わり。もう帰ってよ」
 天見が話した。
「ここが正真正銘、最後だよ。そしたら、明日からまた僕らは他人同士。ね、最後だから」
「駄目なものは駄目。もう一歩だって家に入れないからね」
「緑川さんは知りたくないの? この結末」
「噂の根源は春日井って人だったんでしょ。それで解決したんじゃないの?」
「証明がされてない。証明の唯一の手段なんだ。本当の本当にこれが最後。もう緑川さんにはかかわらない。誓って本当」
 ぐぐぐ、と喉をならず芽衣。
「ねえ、芽衣」
 春枝が言った。
「天見くんが昨日教えてくれたの。糸は二本あるんだって。ひとつは表面を撫で付けたような薄っぺらい事実だって」
「だからなによ。もう春枝の言うことだからって聞かないからね」
 俺が口を出そうとしたら、天見に制された。お前が出てくると話がこじれるから引っ込んでろ、とは言っていないが、天見の目がそう言っている。
「四天王っていう、極悪な連中、知ってる? その配下にはディスペアっていう物騒な連中がチームを組んでるんだ。その四天王の一人が緑川って名前だって、さっき聞いたよね」
「聞いたけど、私じゃないって言ったでしょ」
「そう。でも、緑川さんには弟がいるよね。高校一年生の」
「弟が四天王とか言う奴だっていうの? 私、そんなこと知らないもの」
「別に知らなくても不思議ないけどさ。でも、ここは何とか協力してほしい。弟とあわせてくれないか?」
「弟に会ってなにを話すの?」
「決まってるだろ。僕たちは噂の検証をしてるんだよ」
「でも、弟が何か知ってるとは思えないよ」
「だからここが最後。ここが駄目ならあきらめる。君だって知りたいだろ。弟がなにか良からぬことにかかわってるかもしれない。今回の噂の検証で、君の弟がかかわってるかもしれない。僕なら、君の弟から冷静に話を聞き出せるよ」
「そんなこと言われても……」
「頼む。弟に会わせてくれ」
 天見が拝むように手を合わせると、春枝も同じように懇願した。
「でも……」
「ほら、芽衣の大好きな朝倉くんも四天王の一人だって言ってたじゃない。朝倉くんと親しい人が近くにいたなんて、もやもやをはっきりさせるいい機会じゃない。芽衣一人じゃ聞けないでしょ。朝倉くんのこともここではっきりさせよう」
 確かに、と口元を動かして悩む芽衣。
「分かったよ。その代わり、ちゃんと朝倉くんのことも聞いてよね」
 ということで、ようやく話を聞くことになった一行は緑川芽衣の家に上がることになった。

 

 居間で待たされる俺たちは、芽衣の弟である緑川匡を呼びにいった緑川芽衣を沈黙を守りながら待った。
「なんか緊張するね」
 春枝が言った。確かに緊張する。相手は危険な集団のボスの一人なのだ。
 やがて、緑川匡が姿を現した。寝起きのような不機嫌そうな顔で俺たちに一瞥をくれる。
「なんなんだよ、こいつら」
 突然失礼な態度。我慢我慢。緑川芽衣が説明する。
「あんたにちょっと聞きたい事があるんだって。ほら、あんたが私に聞かせてくれた例の噂の話。あれを詳しく聞きたいんだって」
 ちょっとまて、あんたが私に聞かせてくれた噂? おい、そりゃ、緑川芽衣が噂を聞いた相手って言うのは弟だってことか?
 忘れたといってたくせに、憚ったなこのやろう。
「なんで俺がそんなことはなさなくちゃいけないんだよ」
「すみません。突然押しかけて。お時間取らせませんから」
 天見が年下であろう緑川匡に丁重に頭を下げた。
「誰だよ、お前」
「天見明良といいます。こっちが月波六郎」
 俺も恐る恐る会釈する。
「天見……? あんた、まさか例の事件の?」
 天見は答えなかった。例の事件がなにをさしているのか、想像はつくが確信はない。緑川匡は続きは言わず、黙ってソファーに腰を下ろした。
「それで? 俺に話ってなんだよ。噂ってなんだ?」
「セックスすると、相手の男が死んでしまうという都市伝説、知ってますか?」
 そう言うと「ああ」と緑川匡が口を動かす。
「そんなことで来たのかよ」
「そうです。知ってることを聞かせてもらいたいんですが」
「阿佐美のことだろ。春日井の女の」
 知っているようだ。さて、ここからどう話が展開するのだろうか。
「その噂の出所を捜してるんです」
「何のためにだよ」
「その噂で困ってる人がいるんです。その人を助けてあげたくて」
「困ってるやつって言ったら、本人くらいだろ。お前ら、阿佐美にちょっかい出そうとしてるのか?」
 口調は悪いが、言葉の切り返しの速さと洞察力から、頭の回転の速さが窺えた。少なくとも六郎はそう思った。
「困ってるのは阿佐美さんではありません」
 正確に言えば、困っているのは天見本人なのだ。天見は自分を助けようとしているだけだ。
 天見は言葉を続ける。
「その噂、どなたから聞いたんですか?」
「誰って、阿佐美本人だよ」
「本人だって?」
 ここに来て、本人流布説が頭をもたげた。
「ああ。それより俺も聞いて良いか。おいあんた」
 緑川匡が突然俺を見た。
「あんた、六郎って言うのか?」
 俺は動揺しながら「そうだけど」と答える。
「月並六郎か?」
 だからそうだって、とは言わずに肯定いてみせる。
「昔からこの辺に住んでるのか?」
「そうだけど、それが何か?」
 訊ね返すと、緑川匡が「別に」と顔を逸らした。
「もうひとつ聞いて良いですか?」と天見が話題を戻す。
「本人からって、いつのことですか?」
「新学期が始まって少ししてからだな。あまり口を利かない女だと思ったんだけど、良くファミレスで、二人だけになったときに話しかけてきた」
「どんな様子でした?」
「普通だよ。こんな話を信じるか、って切り口でさ。私とセックスすると相手の男が死んじゃうんだって、て」
「いままで何人死んだとか言ってました?」
「二人だって言ってたな。最近じゃ三人になったけど、三人目は春日井が勝手に作り出したんだよ」
「なるほど。でも、春日井さんも阿佐美さんと付き合ってるなら、きっともうすでに」
「セックスならしてねえよ。あいつ、結構びびってるからな。噂を結構本気にしてるんだよ。セックスした相手は本当に死んでるらしいからな」
 天見が口元に手を当てて考え込んだ。
「春日井……」
 天見が呟く。
 俺も不可解に思った。決して今となっては好きだとは言えないが、倉本阿佐美はかなりレベルの高い美少女である。目の前にいる緑川匡や朝倉とならともかく、あの顔面凶器の春日井と交際するなどということは。
「大体読めたよ。六郎」
「ああ。春日井はまた同じことやろうとしてるんだ」
「そうだよ。でも、どうしようか」
「ううん」
 天見も悩み込む。
「おい、噂じゃ春日井は一度お前らに潰されてるって話だぜ」
 緑川匡が言った。春枝が俺を見る。見られても答えは出ない。事実、春日井を潰してなんかいない。
「潰してないよ」
「有名だぜ。何人か入れ替わったけど、この辺で幅を利かせてた元祖四天王を一度お前らが潰してるんだろ」
 春枝が再度、俺を見る。
「お前らって、天見くんと月並くんのこと?」
「他に誰がいるんだよ。俺だってもっとごっついやつらを想像してたけど」
 天見も俺も答えない。
「どうもありがとう。僕らはそろそろ」
 家を出ると最後まで付いて来ると聞かない春枝に芽衣が付き沿ってくる。
「いよいよだね」
 天見がぼそりと言った。
「いよいよって?」
 六郎が尋ねると、少し微笑んだように唇の端を吊り上げた。
「ここまででいいよ。僕が知りたかった事実は突き止めたから。後は僕一人でも出来る。みんな、付いてきたかったら付いてきて。もう付き合えないのなら付き合わなくていい。僕は本人に会うために用意しようと思っていた情報は全て手に入れたから」
 ここまできて、結末を見ないなんてありえない。
 今度こそ大詰めである。
 直接本人に会いに行く。
 暴かれた事実について、耳をそろえて倉本阿佐美に突きつける。
「さて、これから本人に会って、この噂の検証に決着をつけるけど、二人はどうする?」
 天見がそう語りかけたのは春枝と芽衣だった。
 春枝は口を尖らせ、芽衣は不満そうに、お互いを見合った。
 天見が早々に退散しようと俺に目配せした。

 

 家を出ると最後まで付いて来ると聞かない春枝に芽衣が付き沿ってくる。
「いよいよだね」
 天見がぼそりと言った。
「いよいよって?」
 六郎が尋ねると、少し微笑んだように唇の端を吊り上げた。
「ここまででいいよ。僕が知りたかった事実は突き止めたから。後は僕一人でも出来る。みんな、付いてきたかったら付いてきて。もう付き合えないのなら付き合わなくていい。僕は本人に会うために用意しようと思っていた情報は全て手に入れたから」
 ここまできて、結末を見ないなんてありえない。
 今度こそ大詰めである。
 直接本人に会いに行く。
 暴かれた事実について、耳をそろえて倉本阿佐美に突きつける。
「さて、これから本人に会って、この噂の検証に決着をつけるけど、二人はどうする?」
 天見がそう語りかけたのは春枝と芽衣だった。
 春枝は口を尖らせ、芽衣は不満そうに、お互いを見合った。


----------------------------------------------------------------------
PREV                          NEXT
----------------------------------------------------------------------

【訪問者】  【閲覧者】

inserted by FC2 system