処女+童貞=○○の法則

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序章 《 セックスすると死ぬ女 》


 もちろん、それから俺達はいつもの女子高生の通りの多い通学路など使えなくなったし、信じられないくらいに広まった噂のせいで、両親にまで知られる羽目になり、家庭でも学校でもすっかり浮いた存在になったことは間違いない。
 裸の写真を入手したどこかの馬鹿が学校の掲示板に貼り出したり、先生までもが受け狙いに俺達の話を持ち出す始末だ。
 おいおい、いくら俺でもぐれちまうぞ。そう思うほど、数日間の俺達への仕打ちはひどいものだった。
 だが、その程度だった、といえる。
 ある意味、俺たちはこの学園ではすでに有名人だった。嫌がらせがあっても、精神を追い込むような凄惨な嫌がらせをしてくる生徒は居ない。積極的に関わってくる者も皆無。そうだとしても、居たたまれなかったのは確かだが。
 天見は要領よく、緑川芽衣に会った日から学校を休み続けている。あいつのことだから、このまま学校を辞めるような馬鹿なまねはしないだろうが、転校はありえる。そんなことになる前に天見と話をしたかったが、天見はついに、夏休みに入るまで学校には登校しなかった。

 

 夏休み初日に、俺は天見の家を訪ねた。ところが玄関に出てきた母親が俺の顔を見るなり、目を丸くしてバタンと玄関を閉めてしまったのだ。呆然と立ち尽くしていると、屋内からなにやら言い争う声が聞こえてくる。
 やがて玄関から天見が顔を出した。なんだか顔色が悪いように思えて、俺は「迷惑だった?」と尋ねると、特に表情を変えず「別に」と答えた。
 家の中には入れてくれそうもないので、天見は近所の喫茶店に行こうと提案した。炎天下の中、汗だくになりながら喫茶店に到着して、店員にアイスコーヒーを注文したところで天見が口を開いた。
「大変だったんだよ。うちの両親はあの騒動で大泣きしちゃって」
「そうなのか? うちの両親は笑ってたぞ」
「それはそれで大変そうだけど」
 その皮肉はどういう意味だ。
「何で学校来なかったんだ?」
 尋ねると、「ああ」といって、天見はバックをまさぐり始めた。
「別に、あの騒動のせいじゃないんだ。本当に体調崩してさ。ちょうど病み上がりに君がやってきた。まあ、それだけじゃないんだけどね。ちょっと調べ物もあったんだ」
「調べ物?」
「うん。セックスすると死ぬ女の調査」
 天見が恥ずかしげもなくそう言うものだから、俺は周囲のお客の様子を伺った。話を聞かれた様子はない。
「中学生じゃあるまいし、セックスって言葉くらいで動揺しないでよ」
「場所があるだろ。こんなところで昼真っから」
「そりゃそうか」
 天見はようやく目的のものを見つけたらしく、クリアフォルダに入れられたファイルをバックから取り出した。テーブルの上でクリアフォルダから取り出されたのは、新聞記事の切り抜きや、ワープロ打ちのレポート用紙。
「まだ始めたばかりで調査はほとんど進んでないけど、これだけは分かった」
 新聞記事の切り抜きは、目的の箇所にマーカーが塗られている。ざっと読んでみると、今年の初めに自殺した湯山工業高校の生徒の記事だ。
「その高校に通ってる知り合いに電話して、名前と住所も分かった」
「何でこんなこと調べてるんだ?」
「何でって、噂の検証だよ。なんか不自然なんだよ。セックスすると死ぬ女の噂。僕の知り合いは、二人死んでるって言ってた。紀乃原も二人死んでるって言ってたろ」
「ああ」
「でも、実際死んだのは一人だけ。その新聞記事の男の子」
「これともう一人死んだって言ってたろ。中学生の時の奴って言うのは?」
「噂の男は生きてるよ。ただ、転校しただけの話。みんな転校の事実は知ってるし、当時は別に噂だって立たなかった。後から降って湧いたように噂になった」
「だからって、なんでこんな必死に調べてるんだ?」
「だから噂の検証だって。不自然すぎるよ、この噂。作為的なものを感じるんだ。絶対に噂の出所があるはず。故意に、無理やり流した噂なんだ」
「どうしてそう思うんだよ」
「ああもう、言ってるじゃないか。セックスをすると死ぬ女の噂は、実は一人しか死んでない。しかも、その記事に書いてある通り、その死は友好関係に悩んだ上での自殺。イジメがあったんだ。それに、本人だって――」
 言いよどんだ天見。
「本人?」
「うん。実は、このセックスをすると死ぬ女の名前は、倉本阿佐美って言うんだ」
「倉本阿佐美って、もしかして」
「僕らを騙した女の子だよ」
 俺は目を瞑った。あれはトラウマだ。俺の青春を、大切な大切な代償を払ってまで掴もうとした青春を奪ったあの事件。
「なんだって、そんな女のことなんか」
「興味が惹かれないか? あの子、本人も『自分とセックスした二人の男が死んだ』って言ったんだ。おかしくないか? なんで本人が噂に便乗して嘘なんか言ったんだと思う?」
「分からないよ」
 天見はワープロ打ちのレポートを指差した。
「そこにまとめた。要約して話すと、こういうこと。こういう母親がいてね。娘が突然、原因不明の体調不良を訴えたんだ。その娘はいくつもの検査を受けるけど、まったく原因は分からないし、体調もよくならない。母親は健気に娘を看病する。献身的、自己犠牲的に娘を看病し、励ます姿は人々の涙すら誘ったそうだよ。ところが、ある看護婦が疑念を抱いた。いつまでも治らない娘さんの病気、健気で献身的な母親の姿。テレビ番組で報道され、国中にその母親の姿が放映され、涙を誘ったが、もしかして、それは母親の演技では?」
 俺は結論を先読みした。要するに、この噂はーー。
「そう。娘の原因不明の体調不良は、母親による少量の毒物投与が原因だった。母親は娘に毒を盛ることによって看病を続け『献身的な理想的な母親像』を演じて、周囲に同情を得ることで自己顕示欲を満たしたんだ」
「つまり倉本阿佐美の自作自演ってことだろ。言いたいことは分かったけど、確証があるのか?」
「ないよ。ただの僕の予想。全然違うかもしれないし、当ってるかもしれない」
「それじゃ、噂の検証もくそもないだろうに」
「だから、これから噂の出所をたどっていくんだ。誰から聞いたかたどっていけば、絶対に発信者につながる筈だろ」
「理屈ではそうだけど、一体何日かかるんだ? それに、いくらバトンタッチを遡ってったって、誰かが誰に聞いたか忘れてしまってたら終わりだろ?」
「そしたら、また一から出直せばいい」
 俺は口元をぬぐった。
「本気かよ」
「本気だよ。だから、分かるよね」
「手伝えって?」
「うん。いいだろ、前のときは僕が付き合ったんだ。次は君の番。タダとは言わないよ。ここの代金は奢る」
 アイスコーヒー一杯で見合う仕事だろうか。
「まあいいや、面白そうだし。どうせ夏休み、どうしようか迷ってたところだし」
 天見はにっこりと笑った。天見が笑みを作るのは珍しい。
「でも、秘密主義のお前が、こんなこと人にしゃべるなんてな」
「僕にはある考えがあるんだ。でも、君の言ったとおりだよ。大事なところは、今は秘密」
 この野郎。知りたくなるじゃないか。
 俺はすでに、天見の術中にはまっていたのかもしれない。
 でも、天見の頭脳を持っても、この調査の結末は予想できなかったに違いない。俺だってわかってたら、こんな調査などしなかっただろう。
 最低な青春は、まだ始まったばかりなのだ。

 

 翌日、待ち合わせをして早速、噂の検証に出かけた六郎と天見。夏休みよろしく、真夏の日差しに焼かれながら隣町の駅前を歩く二人。
「でも、セックスってどんなに気持ちいいのかな。あんなに夢中になってみんな繰り返すくらいだからきっと極楽のような……」
 そんなことを呟くと、ふと天見の軽蔑を込めた視線に気づく。
「天見は性欲っていうものが無いのか?」
「僕はセックスしたいと思うよりも、コンドームを付けたり、外に射精したりすることに疑問を持つね。だから、結婚相手しかセックスはしない」
「結婚するまでしないってことか?」
「そうだよ。当然だろ」
「結婚相手が結婚前に求めてきたら?」
「断る」
「それが理由に結婚できなくてもいいのかよ」
「いいよ」
 なんて不敵な奴。六郎はムキになって言った。
「仮に結婚できて、いざセックスするとき、上手に出来なかったらどうするんだ?」
「あんなもの簡単だろ。一定に動くだけなんだから」
 ……ふむ。なるほど。
 そう言われると、確かに同じ動きの繰り返しだ。――いや、そうとも限らない。リズムを変えたり、腰をくねらせて、円を描くような動かし方をすると女性は喜ぶと言わなかったか。それにゼンギだってある。いきなり挿入するわけにもいかない。
 俺はそのときのために必要な筋トレやシミュレーションを欠かさないし、もちろん研究も繰り返すような勤勉な人間だ。それほど練習しても自信が無い。
「お前、どこに入れるか知ってるのか?」
 天見は重い溜息を漏らすと、やれやれと肩をすくめた。
「本当に六郎は性欲の権化だね。それしか頭に無いの?」
 むっとした俺は、それ以上口を開かなくなった。

 

 天見が最初にやってきたのは、友達だと言う男。最初に噂を聞いた人間らしい。天見は手帳片手に、警察官の聞き込みのように質問を繰り返した。
「どんな内容の噂だった?」
「昔の話だから良く覚えてないけど、修学旅行のとき、近所の女子高の女の子に、セックスすると自分が死んじゃうっていういわくつきの女の子がいるって話になった。実際その女とセックスして死んだ男が同級生だったって」
「その話をしたのは誰?」
「同級生の奴だよ。佐藤って奴で、隣町に住んでる」
「ふうん。修学旅行って、いつくらいの話?」
「二ヶ月くらい前かな」
「セックスして死んだ人って、何人くらいだった?」
「知る限り、二人だって言ってたけど」
「その話を聞いてから、後日談みたいなものは?」
「聞かないよ。その一回だけ」
 後は色々質問を繰り返したが、ほとんど覚えていないようだ。天見はそいつの家を出ると、次の目的地、佐藤の家まで向かう道すがら言った。
「都市伝説みたいなもんなんだろうね。噂は電気みたいに一瞬で駆け抜けて、アースに逃げる。トイレの花子さんとか、口裂け女、人面犬みたいにインパクトが強いものは尾ひれはひれがついてありえない話になって行くけど、この噂は一回だけ駆け巡って終息したみたいだから、結構みんな言うことは同じなんだ」

 

 佐藤の家は近所だったので、ものの二十分でたどり着いた。前の天見の友達には、佐藤へ事前に一報を入れてもらっていたため、話はスムーズだった。佐藤を近くの公園まで呼び出すと、早速同じような質問を繰り返す。
「その噂は誰から?」
「当時付き合ってた彼女からだよ。同じ学校にセックスすると相手の男が死んじまう女がいるってな」
「同じ高校ね。噂を聞いた相手の子の名前を教えてもらってもいいですか? 通ってる高校も」
「聖林学園だよ。名前は鈴木由美」
 聖林学園は、俺たちに変態トリオのレッテルを貼り付けた演劇部の女どもがいる学園だ。そして、噂の張本人の倉本阿佐美がいる。意外と噂の大元は近いようだ。噂の元をたどる。その最終地点には発信者がいるはずだ。一つ一つ噂のたずなを手繰り寄せていく。そんなこと、これまでに誰かが試みた事があるのだろうか。噂の根源は、一体どこから、どのようにして発信されるのか。俺は大いに興味を持ち、調査に躍起になっていった。
「実際に死んだ人を知ってるそうだけど。湯山工業高校の……」
「は? いや、違うよ。実際に死んだのは付き合ってた彼女の同級生でさ」
 ほらきた。と天見が呟いた。天見はそれから急速に興味が失ったようで、話半分で会話を切り上げ、佐藤の元を退散した。
 佐藤の家からの帰り、天見は語った。
「噂っていうのは信憑性を持たせたいために、いかに身近に起こったかを演出するんだよ。脚色ってやつ。そのうち、実際に死んだ人数が増えたり減ったりするかもね」
 言っている傍から、次にあった佐藤の元彼女である鈴木由美に電話で連絡を取った。事前に佐藤に連絡するコネを組んでいたので話はスムーズだった。対面することにこだわった天見だったが、今回の相手は女の子。電話で済ませようということになった。
「突然のことで驚かせてすみません。僕の友達が困っていて、どうしてもお話を窺いたくて」
 俺からは相手の声は聞こえてこないので会話の内容は断片的だ。
「そうですか。四人ですか。ええ」
 丁重な言葉遣い。心無い奴は、きっと平気で人格に嘘を付けるのだ。
 電話を置くと、天見は少し考え込んだ。
「どうしたんだ?」
 といかけると、天見は曖昧に肯定いた。
「四人死んだんだって」
「四人?」
「ここに来て、初めて人数が変ったね。二人だったのが四人。鈴木由美さんは元彼氏の鈴木に、確かに四人死んだって話したんだって。だけど、鈴木は二人だといっていた」
「どういうことだろう」
「うん。彼女は噂をニ三回聞いてるらしいんだ。最初は二人だと聞いて、それを彼氏に話して聞かせたあと、後日談で人数が増えたと聞かされた可能性が高い。本人は記憶がごっちゃになってるけどね。最初に噂を聞いたのは友達の女の子からで、後から後日談を聞いたのは別の友達らしい」
「どっちを辿ればいいんだろう」
「そりゃ、最初のほうだろう」
「どうして?」
「当然だろ」
 苛ついたようにそう口走る天見。悪かったな、お前の頭脳についていけなくて。内心悪態を付く六郎をよそに、天見は説明した。
「最近に聞いた噂は、めぐりめぐってる可能性が高い。噂の大元までには距離があるってこと。古い噂なら古いほど、初期の噂だって事だろ。噂が発信して間もないって事は、大元まで近いって事だよ」
 分かったような分からないような。
「他に何か分かった?」
「最初に噂を聞いたのが初夏だって言うから、多分五月か六月。二ヶ月以上前だって事は、少し噂の根源に近づいたって事だね」
「何で近づいたって分かるんだ?」
 そう訊ねると、天見が信じられないという顔で俺を見た。馬鹿にしているな。
「初めて聞いた噂が古ければ古いほど、大元に近いって言ったばかりじゃないか」
 だから、それの意味が分からないんだって。
 俺はこれ以上の屈辱が耐えられず、余計な質問はしないと決めた。

 

 次の目的地に付くと、天見は黙って家のインターフォンを押した。インターフォンから返事が返ってくると、天見が挨拶して目的の人間を呼び出している。
「何度も聞いたけど、わざわざ家まで来る必要があるのか? 電話でいいんじゃないか」
「実際顔を見ないと調査にならないんだよ。電話じゃ相手の嘘を見破れないだろ」
「嘘なんて付かないだろ」
「それが付くんだよ。不思議なもんでさ。こっちはただ質問してるだけなのに、たとえば本人が覚えてないような質問をすると、相手は取り繕うとして無理に答えようとするんだ。別に分からなければ分からないって答えてくれればいいのにね。それに今度の相手はたぶん電話じゃ話を聞いてくれないよ。多少強引に行かないとね」
 どういう意味だ? 今度の相手はだいぶ手ごわいのだろうか。俺が尋ねるまもなく、玄関を開ける人がいた。長身の男だった。肉付きも良く、不機嫌そうな顔でこちらに歩いてくる。俺が心なしかひるんでいると、男は俺たちの横を通り過ぎ、どこかに歩いていってしまった。
「おい天見、話し聞かなくていいのかよ」
「話を聞くのはあの人じゃないよ」
「違うのか?」
「あの男の人は、これから話を聞く人の家族じゃないかな」
「そうか」
 俺は男の歩いていった道をぼんやり見やる。ふと何かに気づいた気がしたのだ。でも、思い出せない。どこかで会った事がある?
 その時、再び玄関を開く音がした。
 俺は言葉を失って呆然とした。

 

「なんであんたたちが……」
 出てきたのは緑川芽衣だった。俺たちを変体トリオ扱いした女だ。
 天見は平気な顔をして「ひさしぶり」と手を上げた。
「なんで……」
 ひどく迷惑そうな顔で文句を言いかけた緑川芽衣の背後から、違う女が顔を出した。
「誰? 友達?」
 不思議そうな顔をしているのは、見たことのある女の子だ。
「春枝は中に入ってて」
 屋内に押し込められそうになった春枝だが、俺たちの姿を見ると、思い出したように指を差して言った。
「あ、変態トリオ」
 ぐさ、と胸を差す言葉だった。俺たちの青春を台無しにした……あの……! ところが、天見は平気な顔で会釈している。目的のためには感情を殺せる人間だ。
「少し話を聞きたいんだ。時間はとらせないから」
 春枝と呼ばれた女の子が嬉しそうに「ささ、入って入って」と招いたが、「勝手に入れないでよ」と立腹そうな緑川芽衣。なにやら口論していた芽衣と春枝が仕方無さそうに玄関先まで手来ると「五分だけだからね」と不機嫌そうな顔を隠しもしない。
「ごめんね、時間とらせないから」
「いいから早く話してよ、近所にあんたらと一緒にいるところ見られたら私の一生が台無しになるかもしれないのよ」
 そこまで言われる俺たちは、どれだけ最低評価な人間たちなんだ。
「実はセックスをすると死ぬ女の噂を調べてるんだ」
「は?」
 それなりにいけてるルックスの女なのに、台無しになるはにかみ顔で答えてくれる芽衣。どうしてそこまで嫌われるのか。
「鈴木由美さんに、あなたから聞いたと聞いたんだけど」
「鈴木さん?さっき電話があったけど、覚えてないわよ、そんなこと」
「でも、噂は知ってるよね」
「知ってるけど」
 興味津々そうな春枝が芽衣の背後で目を光らせている。
「その噂、誰から聞いたの?」
「誰からって、学校の誰かからだと思うけど……そんなことで来たの? 電話でもいいじゃない」
 俺と同じ事を言う芽衣。さては俺と思考回路が近いな。天見に言いくるめられるのも時間の問題だな、と内心ほくそ笑む。
「電話じゃ話してくれないと思って」
 そのとおりだと思ったのか、何も言わない芽衣。
「質問をするけど、いつごろ聞いたの?」
「いつごろって、進級してすぐくらいかな」
「四月って事?」
「そうよ。もういいでしょ」
 芽衣が早く切り上げようとすると、後方に控えていた春枝が芽衣の後退を阻んでいる。
「ちなみに、緑川さんは高校二年生?」
「それが何の関係があるの?」
「噂の元を捜してるんだ。発信元が聖林学園の二年生からかもしれないから」
「だからって、私じゃないわよ」
「疑ってないよ。誰から聞いたか分からない?」
「覚えてないって言ってるでしょ」
「それじゃ、どんな噂か覚えてるかな。実際何人死んでいるかとか」
「私が聞いたのは二人」
 天見が俺を振り返った。さっきの女の子は四人といっていた。やはりこちらのほうがより信憑性が高いって事か。噂を聞いた時期も一番古い。天見の判断は正しかったって事か。無数にはびこる噂の分岐を最短距離で進むにはやはり頭脳なのか。改めて天見の能力に感心した。
「もう帰ってよ。私たち、これから用事があるんだから」
「用事なんて無いじゃん」
 春枝が空気を読まない発言をする。いや、意図的か。春枝が身を乗り出して訊ねてきた。
「ねえ、何でそんなことを調べてるの? なにをしようとしてるの?」
 だから噂の根源を見つけるんだってさっき言っただろ。そう言うと思っていた天見は期待を裏切って丁重に答える。
「困ってる友達がいるんだ。助けてあげたくて。噂の発信者を見つけて、なぜそんな噂を流すのか理由を聞きたいんだ」
「面白そう! でも、それってもしかして阿佐美ちゃんのこと?」
 同じ学校なのだから、当然張本人を知っていても不思議ではない。図星を突かれた天見もさすがに一瞬言葉に窮したが、直に切り替えした。
「阿佐美ちゃん? うわさの人ってその人なの?」
 白を切ると、転じて春枝がうろたえた。言ってはいけないことだったのかと、口元を抑えて気まずそうにする。天見がすかさず口を開く。
「でも、その子は関係ないよ。僕らが捜してるのは噂の発信者で、噂の張本人じゃないんだし」
 そう言ってやると、春枝はほっと胸をなでおろした。
「それじゃ、もういいでしょ。帰ってよ」
 家を追い出そうとする緑川芽衣の腕をがっしりと掴む春枝。緑川芽衣が「なんなの」とヒステリックに声を上げると、春枝が「面白そう」と悪戯っぽく笑った。
「ねえ、面白そうだよ。この人たちの調査についていかない? 噂の元も私たちの学校の生徒っぽいし、私たちがいたほうが、ねえ、ほら」
 春枝が天見を見る。なにが「ねえ、ほら」なのか理解不能な俺を差し置いて、天見はにこやかに肯定くと「助かるよ」と答えた。
「女の子に訊ねに行くとき、同じ女の子のほうがいい。しかも同じ学校ならなおさら助かるよ」
 なるほどと納得する横で、芽衣が「冗談じゃにゃい!」と声を上げる。ところが春枝が戯れる猫のように「いいでしょー」と芽衣にねだっている。何度か押し問答の後、とうとう芽衣が折れた。
「次の一箇所だけだからね」
 春枝が愛らしい涙目で肯定いた。


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